胡桃堂喫茶店

特集・神無月篇[令和四年]コーヒー

少しだけ

柏岡紗季

2018年8月。
わたしは喫茶店の店員さんになりました。
珈琲がどうにも苦手でした。
苦くて、ちょっと酸っぱくて‥。

店員になりたての頃、
お客さまにおすすめはなんですか?と聞かれて
「珈琲、苦手なのでわかりません」なんて
ほんとうのことを言ってしまうような人でした。

(‥しかもその広いテーブルの反対側には
 しゃちょーが座っていて、
 そんな姿を見られていました。)

ある時、珈琲好きのスタッフが
苦手なわたしでも飲みやすいようにと
珈琲を淹れてくれました。
初めて美味しい珈琲を飲みました。

それ以降、
胡桃堂喫茶店のみんなが淹れてくれる珈琲は
飲めるようになりました。

顔がわかる人が作ってくれたものって
なんだかそれだけで安心します。

がぶがぶ珈琲を飲む大人への憧れは
今もずっとあるけれど、
みんなが淹れてくれた珈琲を
たまに、少しだけ飲めるようになっただけでも
うれしいです。

柏岡紗季(かしおか・さき)

20歳の頃から、お店の看板娘として多くのお客さんを迎えてきた。日曜音楽家としての顔もある彼女は、ミッフィーがとっても大好き。