胡桃堂喫茶店

特集・神無月篇[令和四年]コーヒー

珈琲一杯飲まされた

大畑純一

喫茶店で働いてるからって、皆コーヒーをよく飲むわけではない。
コーヒーは苦手です、なんてスタッフもいるし好みは意外とまちまちだ。
それでも定休日(この日に仕込みをしたり定例会議を行っている)にはお昼ごはんを食べた後にコーヒーブレイクがちゃんとある。
(環境は整っている)

それで言えば私はよくコーヒーを飲んでいる。
出勤するときの6割くらいはセブンイレブンのホットコーヒーを片手に持っている。
飲みたいとか美味しいとかはもちろんだが、長時間シフトに入るときなんかはとくに「お守り」のように感じることがある。

 

私は兼ねてよりコーヒー、ひいては飲み物について興味がある。
何年も前に、珈琲の歴史を勉強してスタッフ数人にシェアするという機会もあった。

[当時の資料。2冊ほど本を読み自分なりにまとめた。]

アルコールという共通点があるお酒は
後ろ(今を含めた過去)を向く飲み物であり、
カフェインという共通点がある珈琲やお茶は
前(今を含めた未来)を向く飲み物ではないかというのが私の考察だ。
後ろ向きも前向きも、もちろんどちらにも良さがある。

 

ホントはここに、「胡桃堂ブレンド」のことを書こうかなと思って
シフト上がりに注文したのだ。
庭野くんが淹れてくれたコーヒーを彼が直接運んでくる。
目の前に着陸したカップ&ソーサーは、ちょこんと丸っこくてとても愛らしい。

よくコーヒーを飲んでいる私が
久しく味わってこなかった、時間がそこに流れ出した。
誰かと話すでもなく、甘いものや、仕事や本のためでもない
喫茶店の最小単位であろう私一人と一杯のコーヒー。
いいテーブルと椅子に腰掛けて、ほどよい喧騒と音楽を耳にしながら
壁でもぼーっと見つめてみる。
バーで過ごす感覚ともよく似ているが、むしろシャキッとしてくるのでなんでもいいから紙に書きたくなったりする。
はあ、いいなあ。いい時間だ。
もう夜なのに、一日のはじまりみたいな気持ちがしてくる。
悩んだ末に、あと一口のところでお砂糖を入れてコーヒーを飲み干す。

大畑純一(おおはた・じゅんいち)

スタッフ。チーム全体の庶務的なサポートを行う。普段お店に立つことはないが、週末はネコとして洗い場に入る。ネコという呼び方は、ネコの手も借りたい、に由来する業界用語として近年定着しつつある。