胡桃堂喫茶店

特集・弥生篇「食器」

とある洗い場の男

大畑純一

「じゃ、入りますね」
エプロンを着けながらキッチンのようすを伺う。
胡桃堂喫茶店の洗い場は大きくてとってもいい。
西国分寺・クルミドコーヒーの洗い場は(そもそもキッチン自体が)狭い狭い。
よくこんなに狭いところでと思うけど、それが妙に落ち着くときもある。
バーのシンクも軒並み狭く見える。
それに暗いんだからすごく大変だと思う。
たっぷりとした2層シンク、ドアを閉めたら自動で洗浄を始める食洗機、ちょっとしたレストランにも引けを取らない立派な洗い場だ。
私が到着したときにシンクが溢れかえっていたりするとテンションが上がる。
「あとは任せな!」
俺が来たからもう大丈夫。

ただ、何を隠そう、私は洗い場を回すスピードが遅い部類だ。
これは謙遜ではなく本当にそうなのだからがんばらなくてはいけない。
一言でいえば「どうしても丁寧に洗い/拭き過ぎてしまう」というのが主たる要因だ。
でも、自分なりにいろいろ考えてやってみている。
5年前よりはすこしでも速くなったはずだし、これからも成長していきたい。

洗い場は本当に楽しい。
私は、山登りよりも山下りが好きで、トレイルランニングとも言えるのかもしれないけど、木の根が張り巡らされた変化に富む山道を駆け降りていく時間がたまらない。
かなりのスピードで繰り出す一歩一歩を、足をどこに着地させるか、体重をどこにかけるか、どこをショートカットするか、頭と体を連動させながら走り続けていく。
そこまでドラマティックにはいかないが、食器が山のように積まれた洗い場にも似た感覚を抱く。
繰り返しになるが私は洗い場が遅い。

気合いは十分。
さあ、何から洗おうか。
まずは、手を洗おう。

大畑純一(おおはた・じゅんいち)

スタッフ。チーム全体の庶務的なサポートを行う。普段お店に立つことはないが、週末はネコとして洗い場に入る。ネコという呼び方は、ネコの手も借りたい、に由来する業界用語として近年定着しつつある。