胡桃堂喫茶店

特集・卯月篇「映え」

雨は3番目に好きな天気

東島可那子

雨が嫌いでした。

今でも、晴れの日は天気がいい、曇りや雨は天気が悪いと、ついつい言ってしまいます。それでも近頃は、雨も悪くないって思える瞬間がふえてきました。
雨の日だからこそ聴きたい音楽があるし、音や匂いの心地よさにも気づけたから。
…いつからだろう。もしかしたら、胡桃堂で働くようになってからかもしれない。

歳を重ねることのたのしみってこういうところにあるのかな、なんて思い始めています。
陰と陽、静と動、引く波と寄せる波。
どちらがいい悪いなんてことはなくて、ふたつでひとつ。どちらも私たちに必要なもの。
そう思って過ごしていると、この世界の見え方も少し変わる。そんな気がしています。

私が好きになったのは、雨の胡桃堂、午後5時。人もまばらな店内の静けさと、すりガラス越しにいつもとは違った輝きを放つ光の粒たち。そして、少しお疲れ気味のようすのお客さんの横顔。
まるで映画のワンシーンのように、はっと息をのむほどに、美しく、“映え”ています。本当はあまり人に見せたくない姿かもしれないけれど。
胡桃堂の内装が舞台装置を意識して作られているというのも、うなずけます。

 

人と一緒に楽しい時間を過ごすのももちろんいい。
でも個人的には、1人で抱えるには苦しい時間にこそ、喫茶店を訪れてみてほしい。そう思っています。元気な自分を装わなくていい。そのままのあなたとして。
そうして帰り道には、今日は久々に自炊しようかなとか、明日は早起きして読みたかったあの本読もうかなとか、あの人に連絡取ってみようかなとか、そんなことを思えるようになっていたなら。

東島可那子(ひがしじま・かなこ)

元スタッフ。在籍時は胡桃堂のお笑い担当(自称)。趣味は散歩。思考や気持ちを整える内省型散歩も、ウキウキわくわくの街歩き型散歩も、どちらも大好き。

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