夫は歴史小説が好きだ。
司馬遼太郎の「花神」は最たるもので、第一子を蔵六(ぞうろく)にしようとしたくらい。
が、妻により速攻却下。
すかさず、じゃあ平蔵は?
彼は、時代ものも好む。
そりゃあ鬼平犯科帳は私も大好きですよ。
でもねぇ、、。
池波正太郎に敬意を表しつつ、
不採用。
水しか摂れない酷い悪阻がようやくおさまった立夏。
名付けは早々に頓挫した。
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かくいう私は岡本かの子推し。
高校で「家霊」を読み、「鮨」「金魚撩乱」「渾沌未分」「老妓抄」と代表作に順々とはまった。
第二子はカノ(岡本かの子の本名)とすべく、謎の確信を持って女児の産着を準備していた。
果たして、二男誕生。
ピンクもよく似合う、Z世代。
出産後のぐったりした身体で、一から命名やり直し。
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とかく、名付けは煩悩だ。
思い入れが強くなりすぎてしまうきらいがある。とは言え、なんでもいいとはいかない。あれもこれもと詰め込むと、かえって願いが散漫になる。
お腹をさすりながら、はたまた隣ですやと眠る吾子を横目に。
君の名は、、、
君の名は、、
はてさて、どうしたものだろう??
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悩んだ割に、長男はあっさり落着。
決め手は、吉本ばなな「キッチン」。主人公が"ひろわれた"家の一人息子から頂戴した。
父親が急逝した頃この作品に出会い、後に彼(夫)に薦めた。それからほどなくして結婚したので、手元に計二冊。感慨ひとしお。
互いの父の名の一字が、偶然合致していたのも後押しとなった。
「・・・やさしい子にしたくてね、そこだけは必死に育てたの。あの子は、やさしい子なのよ。」
-「キッチン」吉本ばなな より-
父親かつシングルマザーの雄司こと、えり子さんの言葉が、改めて沁み入る。
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さて、二男。
こちらは夫から一字貰い受けた。
「あんまり小説読まないんだよね。」
植物の育成本やカタログ、関連書籍でギチギチな書棚から引っ張り出したのは、小川洋子「ことり」。
ひたすら切なく、辛い。報われない。けれど、無下にできない。
ミヤマガラスを名に持つ彼の、大切な一冊である。
(そう言えば、兄の名には"翼を大きく広げる鳥"という意味も。)
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最後に。
先日、長男に由来となった小説について聞いてみたら、意外や意外「なんか全部読んだことないんだよなあ。」
そんな彼は、コロナ禍で実家にUターンしてから鬼平にはまっている。
曰く、名付けについて
「蔵六はともかく、平蔵はありだわ。何より"忠吾"がベストかな。」
、、、え?
マジすかっ∑(゚Д゚)。
!!!!!(絶句)!!!!!
なんてこったい!
※忠吾(ちゅうご): 鬼平こと長谷川平蔵が優しくも厳しく育てる部下。女好きの食べ物好き。"うさぎ"とよばれる愛されキャラ。