思い出せる一番古い記憶は、保育園の外廊下の情景。
物心がつく前の記憶はない。
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物心がつく前、一歳の僕の誕生日。
蒸気機関車のかたちをした大きなチョコレートケーキを中央に料理が並んだ。
父は仕事が忙しく母が買ってくれたケーキ。
大きすぎて僕はもとより両親も一晩では食べきることが出来なかったケーキは、冷蔵庫の中で誕生日の余韻を何日も奏でていた。
このケーキの話は母から聞いた。
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いつか、銀河鉄道の車窓から星を眺め、その大きく堅牢な車体の鼓動を感じる時、僕を祝った蒸気機関車のかたちをした大きなチョコレートケーキも記憶の底から走りはじめるだろう。躍動するだろう。その時こそ、実感をもって一歳の誕生日を想い出すのだ。
ケーキと、そしてお祝いの歌も一緒に。
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忘れてしまった記憶は失ってはいない。
その記憶はぬくもりをもって僕の中に存在していると信じている。