僕にとって特別なケーキとは、ホットケーキ。

子供の頃、母が贔屓にしていた喫茶店に連れて行かれると
決まってホットケーキを頼んでいた。

分厚い2枚重ねのホットケーキに、バターとメイプルシロップ。
子供の頃の僕にとって、バターとメイプルシロップの染みたフワフワのホットケーキは、
特別なおやつだった。

小学生の頃、母は家でもよくホットケーキを焼いてくれた。
小さかった僕にもホットケーキの作り方を教えてくれて、
その頃の僕のおやつは、自分で焼いたホットケーキだった。

でも、何か違う。

お店で食べるホットケーキのように、ふっくらと厚くできない。
しかも、メイプルシロップの代わりに蜂蜜をかけていたので、味も違う。
子供の頃の僕は、メイプルシロップなどというお洒落な物の存在を知らなかった。
そして釈然としないまま、自分で焼いたホットケーキを食べていた。

それから成長するに従い、色々な美味しいおやつを知る過程で、
僕とホットケーキとの繋がりは段々と薄れていった。

・・・・・・

時は流れて、大学生の時。

縁があって、喫茶店でアルバイトをする事になった。
その喫茶店では、スナックメニューにホットケーキがあった。
お客様に出すホットケーキを見た時、子供の頃の思い出が鮮明に浮かんだ。

「これは、子供の頃に食べたホットケーキだ！」

その後、カウンターに立つ事になった時、お店で出すホットケーキの作り方を教わった。
もともとは、珈琲を美味しく入れる事を目的で始めたアルバイトだったが、お店で提供するホットケーキの作り方を教わった事が、自分にとって一番の収穫だった。
恥ずかしながら、メイプルシロップの存在もアルバイトを始めてから知った。

本格的なホットケーキの作り方を教わった僕は、色々な人にホットケーキを焼いた。

当時お付き合いしていた女性のためにも、よくホットケーキを作っていた。
初めて彼女に作ってあげた時の驚きと喜びの表情は、今でもよく覚えている。
その後も、彼女が課題で忙しい時や、夜に小腹が空いた時には良くせがまれた。
「美味しいね」と言って、顔を綻ばせて喜んでくれるのが嬉しくて、よく作ったものだ。

実家に帰った時にも、何度か作った事がある。
その度に、母も「美味しい、美味しい」と、喜んで食べてくれた。

最近は、すっかりホットケーキを焼く事もなくなった。
ちょうど良い機会だから、久しぶりにホットケーキを焼いてみよう。

天国の父と母の分も作らなきゃ。