胡桃堂喫茶店

特集・葉月篇[令和五年]喫茶店とまち

喫茶「店とまち」

魂という名の野生動物

喫茶「店とまち」のようになりたい

喫茶「店とまち」のように
石畳の通りに店を構えたい

店の前に木の椅子を置き
そこに座らず
片足を座面に乗せ
その上でバンドネオンを鳴らしたい

抵抗と意思を手放した男と女が
手を取り合うことを許したい
その足並みを
ピアソラで突き動かしたい

器からあふれる水のように
轟く雷のように
山から降りてきた小鹿と目が合ったときのように
ほとばしりたい

植え替えられた緑が命を吹き返すように
マジョラルとエルサマリアは貧しい労働者を癒し
ボカの港に帰ってきた船乗りの魂に触れる
喫茶「店とまち」のようになりたい

魂という名の野生動物

「ない」「足りない」という世界観だった私に、影山知明さんは「すでにある」ことを教えてくれました。探していたものは、もうあった。そのときの体験を童話風にアレンジにしたのが[思い出のケーキ]という作品です。[喫茶「店と花」]という作品は、読み方次第でエンディングが異なります。別れの物語として読むと離婚届が、出会いの物語として読むと婚姻届が待っている物語です。これに[あかちゃんになる]を連作として読むという余白、遊びを残しました。[喫茶「店とまち」]の舞台はブエノスアイレスで、年代は1960年代前後です。短歌にはリアル店舗を忍ばせてあります。夜の『喫茶「店とまち」』から聞こえてくるのが[ポル・ウナ・カベッサ]です。

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