胡桃堂喫茶店

特集・葉月篇[令和五年]喫茶店とまち

ディンブラのアイスティー

チョチョロドリゲス

町に来たのにお茶も飲まずに帰るの? と彼女が言うので、少し歩いて最初に目に付いた喫茶店に入ることにした。

町に来てお茶を飲まないで帰ったっていいじゃないかと思ったが、別に絶対にお茶が飲みたくないわけではない。席についてメニューを開くと、一番上に書いてあったブレンドを頼むことにした。

彼女はメニューを始めから終わりまでめくって一度閉じたあと、またはじめから見返して、ディンブラのアイスティーにする、と言った。ディンブラってなんだろう。

僕たちが座ったのは窓際のテーブル席で、ガラスの向こうには歩道を歩く人や行き交う車が見える。見るともなくぼんやりと眺めていると、彼女はさっき買ったものについて話を始めた。

このオイルは限定生産で各販売店に卸される数が決まっているから今日買えてすごいラッキーだった。オイルだけど夏にもいいんだよ。あとで匂いをかがせてあげる。このガラスフレームには先月の水族館で撮ったクラゲの写真を入れるの。それからこの塩!スペインで採れる岩塩だよ。パスタが楽しみすぎる。

三連休中日の町は賑わっていた。窓の外には、家族連れやカップルや老夫婦や学生らしき団体や犬の散歩をする人や作業着を着た人が途切れることなく歩いていた。僕は、彼女は町に来たらどうしてお茶を飲みたくなるのか考えていた。

しばらくするとコーヒーとアイスティーが運ばれてきた。ディンブラは、見た感じふつうのアイスティーだった。僕は自分のブレンドをひとくちすすった。あ、美味しい。ほーっと肩の力が抜けて、体と椅子が溶け合って合体してしまうかと思った。そのくらい美味しかった。

このコーヒー美味しい、と彼女に言うと、よかったね、と笑ってディンブラをストローで吸った。

チョチョロドリゲス

絵を描いたり文章を書いたり、写真を撮ったり曲を作ったり、散歩をしたりするのが好きです。人と話をすることも大好きです。もちろんペンネームですが、なにかの会員登録でうっかり使ったらこの名前で郵便物が届きました。

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