胡桃堂喫茶店

特集・葉月篇[令和五年]喫茶店とまち

喫茶「店とまち」

魂という名の野生動物

喫茶「店とまち」のようになりたい

喫茶「店とまち」のように
石畳の通りに店を構えたい

店の前に木の椅子を置き
そこに座らず
片足を座面に乗せ
その上でバンドネオンを鳴らしたい

抵抗と意思を手放した男と女が
手を取り合うことを許したい
その足並みを
ピアソラで突き動かしたい

器からあふれる水のように
轟く雷のように
山から降りてきた小鹿と目が合ったときのように
ほとばしりたい

植え替えられた緑が命を吹き返すように
マジョラルとエルサマリアは貧しい労働者を癒し
ボカの港に帰ってきた船乗りの魂に触れる
喫茶「店とまち」のようになりたい

魂という名の野生動物

国が変わり、時代が移っても、なぜか同じ声がする。声は水を注ぐ仕草になり、花を活ける手になり、甘いものを分け合ったり奪い合ったりする。相手と初めて会ったはずなのに、ずっと前から知っているような瞬間がある。街の喫茶店、空港、異国の大聖堂、港町の酒場、上空の機内、下町の屋敷、高台の牧場、都会の蕎麦屋、等々。それぞれの声は交わらないまま、しかし響き合い、やがて別の場所を立ち上げます。そこにいるのは、似た選択で同じような後悔を抱き、迷い、胸を熱くする、名も立場も違う人々です。その記憶をここで静かに追いかけます。

 

これは、時間を超えて繰り返される、いくつかのいのちの物語です。


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