胡桃堂喫茶店

特集・長月篇[令和四年]音楽

鳴る店

カエサザル進藤

20年ほど前に、古い木造の一軒家を借りて住んでいました。

僕は二階の一室を仕事部屋にしていたのですが、当時は自宅録音でCDを作っていたりしたこともあって、部屋で楽器を演奏するのも日常的なことでした。

録音する曲によっては、自分が演奏できない楽器の音が欲しい場合もあって、そういうときには知り合いのつてを頼んで、プロのミュージシャンにわざわざ自宅に来てもらったりしたこともありました。

訪れた彼らは異口同音に「この部屋は鳴るねえ」と言いました。

要するに、演奏するのに良い場所だというのです。それは、この部屋が元々もっている資質よりもむしろ、楽器を演奏することで生じる波動で、何かが整えられてきたのだということでした。「鳴る部屋」の方が演奏しやすいのだそうです。

喫茶店が「鳴って」いいのかどうかわかりませんけど、音楽が部屋に与える影響というのは、実は小さくないような気がします。

居心地が良い店というのは、様々な要素が組み合わさってそうなっているのですが、音楽はその中の重要な役目を担っていると僕は思います。自分が店にいる時にかかっている曲がなにかというだけでなく、これまでその店で鳴ってきた音によって、その店の今が形づくられているといっても言いすぎではないような気さえしてしまうのです。

カエサザル進藤(カエサザルしんどう)

カタカナ+苗字っていうペンネームをみんな持ってて、ちょっとうらやましくなりました。だけどみんなの漢字部分は、苗字じゃなくて駅名だったことに気がつきました。そしてカタカナ部分は食品名でした。気がついたんだけど、この名前が気に入ってしまったので、そのまま使ってみることにしました。