志村さんのような偉大な方とお話できることに胸がときめいている。
珈琲を口に運ぶ前から
彼女の言葉が私のなかでこだましてやまない。
「白のままでは生きられない、そう思うんです」
彼女について私が知っていることなんて
雀の涙ほどでしかないから、おこがましいようだけど
色を生業とし、究めた方だからこその
情熱が、苦悩が、その言葉から溢れ出すような気がした。
色とは、つまるところ光なのでしょうか?
だとしたら闇の中には色なんてないのでしょうか?
「闇は暗いものだと思っていたんです。
でも違う。本当は明るい、底知れない明るさなんだと
少しずつ気づかせてもらってます」
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ふと、寺井さんのあの質問がよぎった。
「あなたにとっての光と影ってなに?」
あの時私はなんて答えたっけな。
*
交わした言葉は多くはなかった。
余白の時間にこそ贅沢を感じた。
何を話したかということよりも
彼女の人間そのものに
ただただ圧倒されたということしか今は思い返せない。
ざらっとした砂糖が溶けきっていない珈琲をくっと飲みきり、
私は本を閉じた。
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このお話に登場した本と著者
●『志村ふくみの言葉 白のままでは生きられない』
志村ふくみ・著
●『10年後、ともに会いに』
寺井暁子・著
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このお話にはフィクションが含まれています