胡桃堂喫茶店

特集・神無月篇[令和五年]

店員の耳の使い方

大畑純一

何日か前に、
「あとは、カチャッに気づけるようになったらいいね」
と言われました。
え、おれ気づけてない!? 自分ではわりと気づけてるつもりだったんですが、たぶん作業に集中してたりすると聴こえないんでしょうね‥。ドアの話です。小さい音ですが、店内に響く音のなかでは特定できる金属音(や音の方向)がある。その音をもとに2Fのホールは下に降りてきて、お客さまを受け止める。

あるスタッフは、仕事がとても速く、現在最も信頼の厚いアルバイトスタッフの一人です。休日のホールは2人体制のことがあります。1F、2F、それぞれを担当し、お料理が上がってくるのは1Fのカウンター。タイミングによって1Fのホールが2Fへお盆を運ぶわけですが、別のスタッフが「Hさんは降りてくるんすよ!」と言ってました。そう、彼は2Fのホールを回しつつ、毎回ドリンクが出来上がるタイミングで階段を降りてくる。一人でできちゃうじゃん、って。

どうしたらそんなにテキパキとホールを回せるのか。聞いてみたんですがおもしろいことを教えてくれました。彼は、音を聴いているのだと。
スチームコンベクションの扉を開けるプシャーという音が聴こえれば、あとこれくらいで定食が出てくるな。製氷器の扉を開けて氷のガチャガチャ音がすれば、ドリンクが出る。それを彼のなかで組み立てながら動き、回しているのだと。

それを聞いてからは私も、キッチンやドリンクから漏れてくる音に耳を働かせるようになりました。
だから、喫茶店員はおもしろい。
最近ホールがとても楽しいです。

大畑純一(おおはた・じゅんいち)

スタッフ。チーム全体の庶務を仕事の中心としながら、たまにシフトにも入る。ホールをうまく回せているときが人生で一番楽しい。ただ、脳のメモリが十分でないためよく混乱している。