胡桃堂喫茶店

特集・文月篇「胡桃堂に来た」と感じるとき

扉を開く音

大畑純一

「ガチャ」
聞こえただろうか?
私には(少なくとも以前の私には)全く聞こえなかった。
人の話し声、ボウルをかき混ぜる音、外を走る車の振動‥、
さまざまな音が飛び交うなかで
かすかに響くその音をキャッチできるのは
お店で働くスタッフならではのことだ。

私がそのことに気づいたのは、
定休日に行われていた会議中だった。
スタッフが突然席を立ち1Fへ駆け下りていく。
どうやら、配達が来たらしい。
会議をしているのは2Fフロアで、
そこから1Fの様子は伺えない。
だが、事あるごとに、スタッフは何かを察知して会議中に席を立つ。
そこで気づいた。

そう、彼女らは
扉の開く音を聞いていたのだ。
私も初めはどうやっても聞こえなかった。
店員としての時間を積んでいくと
だんだんと聞こえてくる。

なんでも初めが肝心だ。
お店に立たない私が言うのもはばかれるが、
私たちが、すべてのお客さんの
扉を開けた瞬間に応じられているかは正直自信がない。
それでも、聞こうと耳を傾けている。
あなたが、扉を開く音を。

大畑純一(おおはた・じゅんいち)

スタッフ。チーム全体の庶務を仕事の中心としながら、たまにシフトにも入る。ホールをうまく回せているときが人生で一番楽しい。ただ、脳のメモリが十分でないためよく混乱している。

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