「今日はお会計のとき、いつも以上にちゃんと店員さんの目を見てありがとうを伝えなきゃ」って、思った瞬間がありました。
お金もない、たのしみな予定もない。
日々がのっぺりとして、なにか生活に刺激や潤いを足さないと、精神が擦り切れてしまう。
そう思い立って、映画を観に行きました。
——「小さなことで尊厳を守るのよ」
白いハンカチに施された、可愛らしい手縫いの刺繍を指しながらのセリフ。この言葉に、ハッとして、涙まで滲んできて。
心でなにが起こっているのかは自分にもわからないけれど、この一言に大きく心揺さぶられているのはたしかでした。
移民として経済的、社会的に困難を抱える登場人物たちとは全く状況は違えど、自分の中のなにかが共鳴したのか。
きっと自覚していた以上に、抑圧された気分とか自信のなさとか、不安が渦巻いていたのだと思います。
帰り道、湧き上がった言葉を整理するため、お気に入りの喫茶店へ。
そこではいつも、空間が、店主の佇まいが、ぐらついた気持ちの受け皿となってくれるように感じられるんです。
夢中になって紙に感想を書きつけること、1時間。
一息ついてふと、「わたし今まさに、“尊厳を守る”時間を過ごしてるんだ」と、思いました。
だとすれば、店員さんはそんな大切な時間を心地よく過ごせるよう場を整え、寄り添ってくれる存在。
そんなことに思い至った末に、「ありがとうをきちんと伝えたい」という気持ちが沸き起こったのでした。そしていちばんそれを伝えやすいタイミングはやっぱり、お会計です。
お店をつくる一員となった今、「大切な時間をここで過ごしてくれてありがとう。帰っていく日常がどうか、健やかでありますように。」そんな祈りのような気持ちを胸に、お会計に立つ日々です。
尊厳を守る時間を、預けてもらう者として。