胡桃堂喫茶店

特集・神無月篇「お会計」

レジ越しの私たち

YanaGiii

飲食店での注文とお会計は、何歳になっても緊張してしまう。

それが、お客にほぼ必ず与えられる店員と会話する機会だからだろう。
殊にお会計となると、私はいつも財布からお金を出すのに手間取るし、その間に店員さんを待たせてしまうのも気まずい。しまいには、慌てて小銭をひっくり返して拾ってもらう始末だ。それが怖くて、普段からお札ばかり使うから悪循環なんだ。
じゃらじゃらじゃら・・・

そんな私が、まさかレジを触る側になろうとは考えもしなかった。

大学5年生にして、初めて喫茶店でアルバイトをすることになった私は、驚くほどレジ対応がぎこちなかった。「1200円になります」ではなく、「1200円でございます」が正しい敬語だということも、そのとき初めて知った。そのぎこちなさも、数ヶ月働けばそれなりに様になってきたけども。

仕事に慣れた私は、お会計の合間にお客さんに話しかけることが増えた。店員として働いてみて分かったが、お客さん自身にとっても、お会計の時間はお店や料理の感想を伝えるのにちょうどいいらしい。「ずっと気になってたので、来れてよかったです!」なんて言われると、まるで店主にでもなったかのように誇らしくなって「ありがとうございます」と満面の笑みで返す。

なんだ、お会計って楽しいじゃないか!

それに、どうやら小銭を落としがちなのは私だけではないようだった。

 

大学を卒業して3年たった今では、お客としてこの喫茶店に通っている。このお店だけは、お会計で緊張しない。知っている顔の店員さんが出迎えてくれて、レジ越しに近状報告をし合うのが楽しみなくらいだ。

「ごちそうさまでした!」

晴れやかな気持ちで喫茶店を後にした私は、駅前のコンビニに立ち寄った。
店員さんは、いつもいる大学生くらいの爽やかな青年。話しかける間もない素早い手つきだ。

「800円です。」

「あ、ICカードで…」

   ピッ

「ありがとうございました。」

うん。まあ、これはこれで緊張はしなくて済むのか…。

一瞬感じた違和感を置き去りにして、買ったアイスが溶けないように足早に帰路についた。

YanaGiii

旅する絵描きの元胡桃堂喫茶店スタッフ。国分寺育ちで実家と胡桃堂を愛する。好物はじゃがいも。

特集・神無月篇(十月) 記事一覧