胡桃堂喫茶店

特集・弥生篇[令和五年]喫茶店と花

花と友だち

fennec

お店までのいっぽんみち。歩道の脇には山吹が咲いている。
また少し歩くと山吹が。あ、ここにも。


ガラス張りのとびらを開ける。
中に入って、くるっととびらに向き直ってできるだけ優しく閉める。

またくるっと180度まわって、それからみなさんとあいさつをする。
大きなテーブルの奥にあるオーディオが見えた。その上には、ガラスの花瓶に入った赤くてちっちゃい実のついたナンテン。
赤って昔からなぜか惹かれる色。

顔見知りの佐々木さんに案内されて2階へ。
6人がけの広々としたテーブルに座る。荷物を置いてほっと一息。と同時にお水の入ったコップが置かれた。
目線は自然とコップからとびら付きの立派な本棚の隣にうつる。
わたしの大好きなユキヤナギが飾られている。はじめて名前を教えてもらったその日から、ユキヤナギを見つけるたびに頭の中だったり、声に出したりして必死に覚えた。今では意識しなくても、スッと名前が出てくる。

はちみつレモンソーダを注文してから、お手洗いへ。
ここには小さな花瓶に入った小さなお花。まだ名前を知らない。どんな名前なんだろう。
外から摘んできた花を飾るのが好きで、そんな雰囲気がトイレの花にはあって見るたびに「とっても好きだ」となる。
ひとつの花瓶に一輪だけ。誰にも邪魔されないシンプルさが好き。

どんな人が選んでいるんだろうなっていつも思っていて、こないださやちゃん聞いてみたけど忘れてしまったな。


駅まで帰るいっぽんみち。
そこにはもちろん山吹がこれでもかと咲いている。蕾もまだたくさんある。
去年もそこにあったんだろうけど、気づいていなかった。今年はいろんな場所で見つけられる。きっと名前を知ったから。
山吹色って本当はこんな色をしているんだね。

fennec

サハラ砂漠に生息するフェネックに似てるとある人に言われた。
胡桃堂喫茶店でひとり本を読んだり、ノートに何やら書いたり、ヘブライ語を勉強しているフェネック似がいたらそれはきっとわたし。

特集・弥生篇(三月)[令和五年] 記事一覧