「喫茶店と本」と聞いてつい思い出してしまったのはラーメン屋です。
すみません。
ラーメン屋といっても、昨今の小ぎれいな、駅ビルに入っているような店ではありません。小さな商店街の路地裏でずっと長く愛されているようなお店です。
床が油でヌルヌルのそういう店には、不揃いに並べられたカラーボックスのような本棚に、週刊誌や続き物のマンガがたくさん並んでいるものです。
のれんをくぐるや「醤油ラーメン」と注文すると、席に着く前に本棚からがんばれ元気の4巻を取り出します。やっと4巻まで来ました。ラーメンは注文してから出てくるまでが早いので、あまり読み進めることができないのです。何度も通って、やっと4巻。
でももちろん、ラーメンが美味しいから通うことができるのです。がんばれ元気を読むために美味しくないラーメンを食べにくるようなことはしません。
喫茶店は本を読むのに向いています。ラーメンを食べながらマンガを読むなんて、そんな器用なことは私にはできませんが、コーヒーを飲みながら本を読むことはできる。なんなら、コーヒーを飲み干してしまってからもずっと読み続けられます。
コーヒーと本には微妙な関係があります。主従がないといいますか。ラーメン屋で、がんばれ元気は明らかに主ではありません。でも、喫茶店ではそれが逆になることがある。本が主役になれる飲食店って、喫茶店だけじゃないでしょうか。
胡桃堂喫茶店の窓際の席で本に夢中になっていると、ふとコーヒーの香りが鼻腔をくすぐります。その途端、主役はふたたびコーヒーに移り、カップのコーヒーを飲み干すとお代わりを注文します。コーヒーは注文してから出てくるまでが早いですが、運ばれてきてからも読書を続けられるのがラーメンとの違いです。なんなら、何杯でもお代わりができるのです。