特集のおもしろさは、
なんてったって「いくつもの視点」だと思う。
(と言い切る私もまたひとつの視点)
喫茶店にはいろんな人が来る。
いろんな人が来るのが、きっといい喫茶店だ。
そんな風景を特集には重ねてきた。
それが最もよく現れているのが
6つもの文章が寄せられた八月の特集「グラス」だろう。
店主・影山の『お冷』には、
そのタイトルに相応しい考察が残されている。
店主である前に、一人の店員として
ひいては人としての姿勢とその解説には
私の首も縦に振りっぱなしだ。
もっとも、それでもすべてに共感できるわけではない。
影山が提唱する「1割理論」には異を唱えたい派だ。
1割になってからでは遅すぎる、と本能が動いてしまうのは
私の前職がレストランのウェイターだからだろうか。
『お冷考断片集Ⅰ』の考察もまた秀逸だ。
やはり入口でいらっしゃいませと言われても
最初は気もそぞろというか、大抵落ち着いているとは言えない。
席に案内され、椅子に身を預け、あたりを見回す。
お冷を持ってきた店員が「いらっしゃいませ」。
そう、ここでやっと「あ、どうも」なんて心のなかで返せる余裕が出てきて、お店に迎え入れられた気がするものだ。
お冷を出す/受けるという行為は私たちにとっては欠かせない挨拶なのだろう。
はたまた、グラスそのものに注目した視点もある。
『透明でつるっとしたもの』は、
お客さんから寄せていただいた文章。
私たちのお店に来て、何かひとつにでも美しいと心を動かしてくれるというのは、本当に嬉しいことだ。
『グラスを持参』では、
アタッシュケースに食器を全種類持ち歩く紳士が登場した。
お店で見かけることがあったら、ケースの中身を見せてもらうときっと楽しいだろう。
ありふれたお冷グラスからだって物語は生まれると
『グラスの水』が教えてくれる。
胡桃堂喫茶店には手ぶらで来たっていい。
本だってたくさんあるから退屈はしないはずだ。
過ごす時間のなかで何かが起こるかもしれない。
さあ、いろいろ紹介してきましたが
私の一番のお気に入りはこれ。
『鳥が飛び方を忘れないのはわかってる』。
ぜひ読んでみてほしいのです。