、、,この店には一年に一度、二膳しか提供されない、特別メニューがあるらしい。しかも、それが載っているメニューブックに当たらないと、頼めないのだ。さらに、撮影は完全にNG。写そうとすると、カメラやスマホが故障してしまう。らしい。しかもよ?何を食べたか話そうとすると、顎がカクン!って、あかなくなるんだって。嘘かホントか、知らんけど。都市伝説っぽいよねー。
、、なんて雑談が、席に着くなり少し離れた後ろの方から聞こえてきた。
ふーーん。
私はいつも通り,台湾カステラと胡桃堂ブレンドがあればごきげんなんだけどね。
メニューブックをとりあえず開く。
(読み物としても面白いのだ。ここのは。)
はっとした。
なに、これ???
金色の文字で、ただ一文。
「おとなしにはるこそきたれうめひとつ」
まさか、、、。まさか、これが?
わたし、大当たり?
そっと辺りをうかがう。いつもと変わらず、さざめく店内。
ふと視線を感じて右を向くと、見知らぬ顔がこちらを見ている。
机の上にメニューブックを立てて、まるで小学生が教科書で何かをかくしているみたいな持ち方、、。
もしや、あなたも??
「お決まりですか?」
視線を外し、一瞬思案したように見えた彼は、指差して「これを。」と一言。
スタッフはニッコリすると、メニューを受け取った。
呆気に取られた私も、別のスタッフに声をかけられる。
「、、、、、、これを。(ああ!真似っこ!)」
やはりニッコリして、メニューブックは下げられた。
窓際で、凍りついたように座る二人。
「お待たせしました。」
隣席に、何かが置かれた。目の端でチラ見するのがやっと。黒塗りの小ぶりな重箱みたいな、、。
彼はゆっくりと蓋を開ける。
うわあ、、と声にならない歓喜がこちらに押し寄せてくる。
「お待たせしました。」
滑るように、眼前に赤の姫重が置かれる。添えられたお茶の緑が芳しい。
なんだろ,この感じ?
久しく忘れていた、ワクワク感。
そっと蓋を持ち上げる。
一瞬、梅が香った。
『音なしに 春こそ来たれ 梅一つ』
黒柳召波