彼女の手をとった私に届くのは
バイオリン、チェロ、バンドネオン、ピアノ、コントラバス
ほかの客の話し声は次第に止み
小さくなって
店のフロア中央に集まる
誰かのカップがソーサーに触れたとき
私は彼女の左手を
自分の右肩に置く
バイオリン、チェロ、バンドネオン、ピアノ、コントラバス
それらが、それぞれの楽器としてではなく
今夜の景色として私に迫ってきたら
店の奥に座る年老いた夫婦をひきつけることも
できるだろう
ところどころ割れた床板は
パレットの廃材をつなぎ合わせたような
年季の入った色をしていて
重心をかければ
ぎいぎいと鳴る
なのに今夜は聞こえてこない
それは男女の滑らかな荷重移動が
床板を黙らせるからだ
拍手と音楽で体がいっぱいになり
それらが鳴り止んだとき
私の耳に届くのは
自分の汗が床板に落ちる音