胡桃堂喫茶店

特集・弥生篇[令和七年]自分の時間を生きていると感じられるとき

ごんは猫

(な

ごんは食いしん坊だ

全員分のお皿が並ぶと
一目散に駆け寄って
すべてのお皿を
ちょこちょこちょこと満遍なくつまむ

ごんはアレルギー持ちだ
舶来人形のような青い瞳は常に潤み
くしゃみをすると、昭和の子どものような青っ洟を飛ばすこともある

ごんは病院がだいすきだ
待合室では、ケージの中から見知らぬ誰かに話しかける
受け止めてくれる相手は常にいて
しばらくの間、掛け合いを楽しむ

診察室では、我が物顔で歩き回り
診察台に寝っころがり、入念に手を舐めながら
先生の出番を待つ

ある日、待合室で
いつものように掛け合いが始まった
相手は見知らぬまるい三毛猫
しばらくの間、掛け合いは続き
急に静かになった
そして
ごんの瞳から涙があふれはじめた

「突然アレルギースイッチが入った」と
診察のときに先生に事情を話す
先生はごんを診て
小首をかしげ
「実はあの猫、先週お母さんが亡くなったのだけど、もしかして聴いたのかな?」

ごんはもうすぐ15歳
数年前から猫特有の病気と共存しているが
本人はまったく気にしていない

さらになぞの皮膚炎にかかり
首にカラーをつけるようになって一年が過ぎた

カラーのせいで
お腹にピンク色の無毛地帯ができても
本人はまったく気にしていない

むしろカラーをうまく使い
ごはんを囲い込んで他の猫から守ったり
カーテンを開けたりする

ただひとつ、不満があるとしたら
最近ごはんが療法食になったこと
だいすきなつまみ食いは
できなくなってしまったのだ

だけど
ごんは自分の時間を精いっぱい生きている

もうずっと
生まれる前からそうやっていたかのように
このまま永遠に続くかのように

ただたんたんと
ごんの日々はまわり続ける

(な

猫と暮らして数十年。
いつか猫に好かれる人になりたいと日々精進中。