胡桃堂喫茶店

特集・弥生篇[令和七年]自分の時間を生きていると感じられるとき

世話

ユキコ

朝起きると、目の前に緑色がある。世話をしている植物がいつものように葉を広げている。冬には眠っているように成長が止まるけれど、暖かくなるにつれてぐんぐんと育つ。思いもよらないところから芽が出てきたりする。

15個の植物それぞれ、必要な水の量が違う。日当たりを好む植物もいれば、日陰のほうが生き生きとしている植物もいる。日々、元気になったり弱ったりする植物を眺めては、移動したり剪定したり。

 

でも、気持ちが沈んでいると、それができなくなる。

そうしてしおれた心は、植物の葉もしおれさせていく。

 

大人になればこそ、弱った心をそっと脇に置いておける。何でもないように、やっていく。笑うことだって簡単だ。

 

それなのに植物は、わたしのありようをそのまま見せてくる。

いつの間にか土が乾いている。葉が黄色い。光が足りていない。

 

けれど同時に、植物からのこうしたメッセージは、わたしがふたたび元気になれるシグナルにもなっていた。

鉢に注いだ水は、わたしの何かを満たしていく。色褪せた葉を取り除いては、晴れやかな気持ちになった。日差しを浴びた青葉につられて笑った。

 

弱ったり元気になったりするわたしは、元気になったり弱ったりする植物と、息がぴったりみたいだ。

果たしてどっちが世話をしている側なのだろう。それはわたしにもわからない。

ただ、植物が新芽を伸ばす春を、わたしはとても気に入っている。

ユキコ

編集者、アンティークショップ店主。
東京 西多摩地区に暮らす。


「暮らして働く」国分寺のひとびとに魅せられて、国分寺移住を計画中。手作りのパンやお菓子をみんなに食べてもらう日々を過ごしたい。編み物もすき。


Instagramアカウント:@yukikoamano