子供のころ書いた小さな箱の絵がありました。
今日は私がまだ箱の中にいた頃の話をします。
箱には少し穴が開いていて、その中から外を見ることができました。
箱の中の世界は、私が思った通りの色合いで、黄色、茶色、青、赤。互いがぼやっと混じるところもあれば明るい黄色の光のようなところもありました。
箱の中から見ている世界は輝いて見えました。だから外へ出たんです。
外にでて最初に出会った人に「この箱素敵でしょう?」ってこれまでいた箱の世界の話をしたのだけど、「そう?それより、勉強終わった?」と言われて、少しガッカリしました。次の人にも「これ見て!」って言ったら「ちゃんと座っていないとダメでしょう、ちゃんとした大人になれないよ」って言われて、混乱しました。次の人には「これってどう思う?」って箱を見せました。「何言ってんの?箱の事ばっかり言っているからみんなについていけないんだよ」って言われました。
私は、箱の中に戻って、もう一度考えることにしました。「やっぱりこの箱は素敵だよな」「私の世界なのに」「みんなの世界はどうなっているの?」混乱してどうしたらよいか分からなかったけど、「トントン」って私を呼びに来た人がいて、私はもう一度外へ出ました。
その日は花火大会で、ドンドンと大きな花火があがっていました。外は真っ暗だから、箱の中の方が安全かなって、少し思ったけど、あまりに花火が大きくて、花火の世界に入っていく感じがしました。
花火が終わって、後ろを振り返ると、さっきまであった私の箱が、棺桶になっていました。「うそ・・・・。」
もう元に戻れない。どうして棺桶って分かったのか、もう戻れないって直感で分かりました。私はどうしたらいいの?私は必死になって元居たところを思い出して絵を描きました。それが、この絵です。
記憶というのはあいまいで、とても大事なことだったはずなのに、すぐにこぼれおちていってしまいました。あーあんなに大切な場所だったのに。それでもなんとか、絵を描きました。
この絵を持って私は出かけることにしました。新しい寝床を探すんだ。少し勇気が湧いてきました。しばらく行くと花瓶型の建物が見えてきました。「こちらへどうぞ、絵を持っているんでしょう?」ワンピースの似合う女の人、丁寧に私に話しかけてくれました。私は驚いて、でも「絵のことを知っているのだから大丈夫」と建物の中に入りました。
建物の中では、お茶会が開かれていました。お茶会に参加するのはちょっと恥ずかしいので、部屋の天井に浮かびながら様子を見ることにしました。
「昨日見た夢は、珊瑚に乗って海の中を探検する夢だった」小さな男の子が言いました。「珊瑚ってあの珊瑚?動いたの?」「そうなんだよ、すごいスピードで進んだり、時にはちっとも動かなくなったりするんだ。動かなくなったときは、僕が押して歩いたよ」
「珊瑚というのはね、海の生き物の死骸なんだよ。」おじいさんが私に教えてくれました。
「え!?おじいさん!?」私に話しかけたのは、天井に同じようにいたおじいさんでした。
「ここでは、どんな姿であってもいい。みんなそれぞれ自分の時間を生きているんだ」
「自分の時間?」
「そう、君にもあるだろう?、絵を見せてごらん」
さっきまで持っていたはずの絵はなくなっていた。探さなくてもないんだって分かった。
「ああ、絵は持っていないんです。私はもう絵を持つことはできないって、そう思って」あの絵を手放してしまったと思ったらとたんに涙が出てきました。「だってほら、だれもあの絵を褒めてくれなかった」「私の大事な箱の絵だったのに」「もうないの」止めどなく出てくる涙と私の言葉をおじいちゃんは黙って聞いていました。
「どんな絵だったんだい?もう一度書こう」おじいちゃんは、私にいくつか質問をしながら新しく絵を書いてくれました。それがこの絵です。
え、、、、ぜんぜん違う。箱じゃないし、形ないじゃん。
「違う!!」「違う!」「違う!!」叫びながら私は気が付きました。
私にしか分からない世界なんだと。おじいちゃんが絵が下手なわけではなく、私の世界は私にしか描けないんだと。もう一回描けばいいのか。
少し勇気が湧いてきました。
私はしばらく箱の絵を描き続けました。
箱は前の絵と同じようだったけれど、ちょっと違う感じもして、なんかあったかくなったなって思っています。あとは、窓からのぞくタイプじゃなくて、真ん中が空いてるデザインに変わっていました。これならお客さんも来られるもんね。
この絵を書き終わったら、私もお茶会に参加しようと思う。またいつかはここを出ていかなきゃならないかもしれないし、もっと外を見てみたいような気もする。でもね、この絵はちゃんと持っていく。もう、誰も褒めてくれないし、とかそんなことじゃなくてこれは私の絵だからさ。