胡桃堂喫茶店

特集・卯月篇[令和七年]

水汲みに

moe

なんもない土曜日、しっとり雨の日。

のんびり起き出して、朝ごはんに筍ごはんとスープを作る。
雨だから洗濯物はお休みでOK。

カフェオレ淹れて、焼き芋に一口ごとにバターをのせて食べる至福。
とっちらかっている部屋の中を見渡して、気になるとこから片付けてみる。
おうちごっこを始めた子を横目に、洗濯物を少したたんだり。

「お水汲みに行きたいね。」
「行きたい珈琲屋さんがあるんだよ。」

そんな会話からドライブ決行。
近所の図書館で本を借りて出発。
小一時間ほどの車の中で、借りたばかりの本を開く楽しみ。
わらべうた絵本はいいチョイス。
膝の上できゃっきゃと笑いながらいろいろやってみる。

だんだん近づく山並みは霧の中に見え隠れしている。
新緑の山の緑のグラデーションに、時々ぽつぽつと藤の花の淡色が美しい。

すいすい進む車、あっというまに目的地にたどり着く。

「あ、パン屋さんがあるよ。」
ぱたぱたはためく旗をたどって、神社の麓にあるパン屋さんへ。
水色の階段を上るとそこは、懐かしい地元のパン屋さんを思い出すような景色。
明日の朝が楽しみになるような山食と、ひとりひとつの好きなパン。

ほくほくと階段を降りて、珈琲屋さんへ歩いて向かう。
畳屋さんを改装したお店らしい。
看板はそのままに、室内にはあちこちの喫茶店を彷彿とさせるような椅子たち。
静かな店主が迎えてくれる。

ひとり一杯ずつ、チョコレートケーキは分けっこして。
久しぶりに飲んだコーラが妙に美味しく感じた魔法。

本棚がわたしのと似てる。
やっぱり間違いなかったなぁと思う。

「すぐそばの神社から、山がよく見えますよ。」
店主さんに教えてもらった通り、赤い鳥居を目指して登る。
遠くに山、その前に電車、家々が見渡せる気持ちのいい場所。

年季の入った遊具も並んでいて、真っ先にブランコへ駆けて行ったしーちゃん。
座って乗ったり、立ち漕ぎしたり、3人並んで揺られてみたり。

葉っぱの上を登ってゆく天道虫、あちこちの蟻の巣穴を観察。
たんぽぽの茎がストローになるのを発見して、残りのコーラを飲み干した。
永遠にも思える時間。
お天道様はいつの間にかどんどん照って、背中が暑いくらいだった。

とことんあそんで車でことん。
胸の中で眠る子を抱いて、流れる景色を見ていたら
わたしどこでも生きていけるんだな、と思う。

水汲みの場所はちいさくて清らかで、大切に守られていることが伝わってきた。

思わず裸足になって足を浸す。
冷たくて気持ちよくて笑っちゃうほど。
組み立てのお水をごくごくと飲む。

道の駅で啜ったなんてことないきつね蕎麦がおいしかったり、
おじちゃんが焼きたてを手渡してくれたたこ焼きをふうふうしながら頬張った。

帰りの車はちゃぷんちゃぷん
お水の音に包まれて帰った。

予定してなかったこんな旅がたまらなく好きだ。

moe

1990年生まれ 牡牛座
東京都稲城市で生まれ育ち、小・中学生時代は新体操、
高校から大学までチアリーディングに夢中に。
助産師への憧れから看護の道へ進む。
筑波大に通いながらシェハウスに暮らし、コミュニティカフェの立ち上げに関わり、地域の居場所作りに興味がわく。
イギリスにある「土・心・社会」をテーマに学ぶ『シューマッハーカレッジ』での体験を機に、自分も場を作ろうと、母とともに地元稲城の空き家を借りて『いな暮らし』という店を始め10年。
3歳の子どもとの生活をベースに、新たな展開を模索中。