若い頃、繰り返す夢があった。
一つは水没。
古い古い神殿の中、白いローブを纏った人々が逃惑う。自分は性別も歳もわからない。何処からか無数の水の塊がうねり、都市を覆う。
気づくと、水底には瓦礫と人の重なり。そして、そこから気泡が無数にあがる。あかるくひかる泡は水面を目指す。それらを見ていたわたしもまた、既にひかりだった。そしてゆっくり、上へ上へと浮いていく、、、。
もう一つ。
そこは、勝手知ったる街中。灯はすでに消えている。気配は無く、ほの明るい墨絵の中を、一人歩く。
ふと何かを感じ見上げると、そこは曇天。道路に平行して雲の裂け目が一筋。裂け目の奥には、紺碧があった。
今にも天から溢れ落つるような、海。
おそろしくもうつくしい、なんというあお。心底ゾッとした。
転げるように走り出す。
逃げおおせるわけがない。そう思いながらも、必死で。
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今はもうみることのない、境界の記憶。