こんには、かげやまです。
この2022年下半期も、うたあり、エッセイあり、フィクションあり、インタビューありと、バラエティ豊かで粒そろいの原稿が並びました。ご投稿くださった方々、ありがとうございました。
それらの中から、各編集メンバーがどれをイチオシ!記事に選んだかについては、動画をご覧いただくとして、ここではこの「特集」という場にかける思いを少しだけ書いてみようと思います。
胡桃堂の新しいウェブサイトをオープンさせるとき、キーワードとして「衝動」と「パラレルワールド」という2つのキーワードがあがりました。その背景には、SNSがこれだけ普及し、即時的な、あるいは告知的な情報を伝えるだけであればそれで用が足りるという今日にあって、ウェブサイトの役割ってなんだろう?って、改めて考えたことがありました。
そしてそのことを突き詰めて考えたとき、結局「喫茶店みたいな場をつくればいいんではないか」というアイデアにたどり着いたのです。あたかも、実際の喫茶店を訪ねているかのような気持ちになるサイト。
喫茶店のような場の面白さを表現するキーワードが、先の2つだと考えたのです。
一人一人が社会の枠組みから少しだけ自由になって、自身の内発的な衝動に基づいて、いろんなことを感じたり考えたり、自分自身の時間を過ごすこと。自分なりの表現を始めるきっかけとなること。
同じ店で同じときに同じ時間を過ごしているように見えて、実は一人一人が、それぞれにしか流れない時間を自由に過ごしていること。それはまるで、それぞれがパラレルワールド(並行世界)を生きているようであること。
そんな場って、世の中見渡しても、他にほとんどないよなって思いとともに。
そしてサイトのメニュー全体の中でも、この月がわりの「特集」にこそ、その魅力があふれていると思います。
書き手それぞれに、投稿のトーンはさまざまです。
たとえばぼくは、この場を使って、「喫茶店・カフェの現場の工夫や苦悩やノウハウ」みたいなものを伝えらえたらいいなと思って書き始めました。後に、こうした場づくりに向き合おうとする人たちへの指南書になるようなものを残せたらないいなと。以来、だんだんと書く内容はそこから逸れていっていますけど。
他の書き手たちも、それぞれにテーマがあるようなないような中で、そのときどきの衝動に任せて、原稿を放り込んでくれています。その一つ一つを読むと、それぞれがそれぞれの世界を生きているのだということが伝わってきます。でもそうした中に、共通して流れる色やリズムみたいなものがあることもあって、そういうのって面白いなと思ったりします。
この「特集」にはどんな方でもご投稿いただけます。
「何を書いたらいいのか分からない」というのは、よく一番いただくご質問ですが、そここそが大事な第一歩なのではないでしょうか。だって生きること自体、そういうところがあるわけですから。「どう生きたらいいのか分からない」ってところから、誰しもはじまるわけですよね。
でも、その投げかけに向き合っているうちに、なにかの拍子に、なんとなく自分の内側から湧き上がってくるものがあることがあるわけでしょう。
一番残念なのは、その投げかけや問いをなかったことにすることです。苦しいからって。実際、ちょっと目を背ければ、「やらなきゃいけないこと」「やるといいと言われていること」が、いくらでもまわりに溢れる今日ですから。そうした方向に自分の時間を仕向けているうちに、あなたの内なる声はどんどんしぼんでいきます。
「自分なりの表現をする」──その第一歩として、この特集の場を活用してもらえたらいいなと思います。どんな投稿でも基本、面白がって読んでもらえる。こんなあたたかな読み手にめぐまれた場ってあんまりないと思いますから。
そしていずれは、ここに書きこんでくれたあなたと、その先の作品づくりなどできたらいいなと思っています。ぼくらが実現したい作品づくりは、まさにここの投稿に表れているような、その人の存在に根ざし、その人の生きる実感に裏打ちされた、生きた言葉たちだからです。
喫茶店に流れる色とりどりの時間。この特集からも感じていただけたなら、こんなにうれしいことはありません。