胡桃堂喫茶店

特集・霜月篇[令和五年]喫茶店での出会い

見知らぬあなたへ

古川さと

五葉の葉書が手元にある。
世に言う「お手紙コーヒー」、その返信。
見知らぬあなたへ宛てて、
ふと、忘れた頃に返ってくる。
ひとつ届くと、ひとつ送る。
贈る、受けるを、繰り返す。

初めは、むしろ自分宛てのつもりだった。
したためただけで、心が安らいだ。
年明けのバレンタイン、返信が来た。
メッセージに胸が痛み、スタッフの書き添えで涙が出た。
贈ったつもりが、倍になって返ってくる。
思いがけぬプレゼント。

ほんの一瞬の、
優しい戯れでしかないかもしれない。
それでも確かに、
心ある場があってこその、
紡がれる、ちいさな縁。

どうか、願わくば。
家族の病に寄り添い、闇の中にいるあなた。
宿った命との突然の別れに、それでもなお、一歩踏み出すあなた。
その手のその瞳の先に、ほのかでも確かな希望が点(とも)りますように。

未来に惑うあなた、心が飢(かつ)える気がするあなた。
新しい扉を開け,ときめきや、自分にとっての本物と触れあえただろうか。

小さなお子さんを育むあなた。
あなたの一生懸命さに、微笑みと懐かしさを感じ、かつての自分を振り返る。
健やかな成長を祈ってやまない。

そして、スタッフ。
一葉一葉、真摯に受け送る
皆さんの心配りに、感謝します。
日々の行いを、粛々淡々と続ける非凡。
それは祈りであり、
幸せへの希求であり、
理想の具現でもあり。

立冬の頃、見知らぬあなたへ思いをはせながら。
よき年が、訪れんことを。
切に、切に。

古川さと

鳥派。
小鳥に好かれたい。
積読多々有。
歩き過ぎて、叱られる。
方向音痴。