「これ、あげる。」
おかっぱ頭の小さな女の子が差し出したのは、赤く熟した大きな梅の実。佇まいが大人びていて、不思議な感じ。会計を終えた祖母と思われる女性が、にこにこしながら呼んでいる。
「なんだかね、どうしてもここに行きたいってねだられてね。これを拾ったらしくて、、。」うちのショップカードを見せてくれた。
「おいしかった?」と聞くと、だんまりこくこく。「この子,あんこやお豆に目がなくて、、。」女性が付け加える。
さ、行きましょうか。引く手をするりと抜けて、女の子が私に囁いた。
「ヒトツダケ、オネガイカナエテクレルヨ。」
え?と思う間も無く、開いた扉をつるんとくぐっていった。慌てて女性も後を追う。おやおやといった顔つきで、常連さんがお店に入る。「ひと雨きそうだよ、これは。」
閉まる間際に見えた空は黒く、おどろおどろしい。
突如閃光、そしてバケツをひっくり返したみたいな豪雨。歩いていた人達が散り散りに逃げていく。
もらった梅の実が、ほのかに香る。
、、今日はもう開店休業かな。
潰さないように、ハンカチでそっと包んでエプロンポケットに入れる。
絶え間なくガラスを叩く雨。容赦ない。ああまるで、滝のよう、、。
雨音に混じるBGM。ふと、手が止まる。
、、元気だろうか、あの人は。
水の流れを目で追う。最後に会ったのは、いつだったろう?
このまま水に埋もれてしまう怖さも感じながら、思う。
、、会いたいなあ。
どどどどどどどどどどどどどどどど
水音の中で、作業を続ける。
やがて。
「あ、虹がでてるよ!」
誰かの声で、我に返る。小雨が引いていく。凄い雨だったねぇ、、と、誰ともなく呟く。
あれ?
エプロンに触れて、梅の実がないことに気づく。あれ??
漬けたばかりの瓶の梅が、カランと鳴る。続け様に、ガチャ、、と,遠慮がちに扉が開く。
、、あの子が笑った気がした。