新宿?
午後は休講だった。つるむ気もせず、ふらりと近くの映画館へ。広い劇場に、客は数えるほど。どうせならと一番前に陣取る。邦画の冒険活劇、ニ世俳優がガチャガチャ喚いている。ハズレかな。あくびが出た。
ばーん、、ばーん、、ばーんと続く、音と振動で目が覚めた。スクリーン、じゃない、後ろから近づいてくる。何?
にゅっ、と右横から、足が伸びる。
よっこらしょとシートを跨ぐと、ばーんっ!と両足をついて、勢い座る。あっけに取られる。
「お邪魔してごめんなさい。」
ショートカットの学生らしき女の子が、顔を向ける。
「知らないおじさんに右もも撫でられて、頭きちゃって。座席またいでここまできました。」
ニッコリして、彼女は続けた。
「隣で観ても、いいですか?」
新所沢PARCOレッツシネパーク
エンドロールが果て、明かりがつく。本日の最終上映。誰も喋らない。頭がガンガンする。真っ先にトイレへ。
個室から出てくると、洗面所で三人ほど、片手をついて頭をおさえていた。
原罪に悶える羊。
肩で息をし、大きなお腹をさする。
母をあやすように、胎児はトントンと小さく応える。
「もう、ほんとこの子ったら!」
玄関から大きな声がする。温厚な義姉にしては珍しい。
義父の一周忌。料亭でお斎を終え、先の便で帰宅していた私達は、何事かと玄関へ。
小柄な彼女が育ち盛りの息子の肩を支え、危なげに歩いてくる。夫と共に手を貸す。えへへ、と照れ笑いしながら足を引き摺る甥。
小さい弟や従兄弟らが、わらわら寄ってくる。
「もう、信じらんないっ。」
ありがとね。お茶を受け取ると、義姉はため息。
「後発の送迎車を待っていたら、あの子、三メートル位の塀の上によじ登って、、まとりーっくす!って叫んで飛び降りたのよ?」
はぁぁ、、、。お茶を啜る。捻挫と擦り傷で済んだとは言え、全く、男の子ってなんだって、まぁ、、、。
まあまあ。少なからず身に覚えがある先輩たちが,こぞって義姉を慰める。
中学生男子なんてそんなもんさ、そんなもんだよ?
脚の包帯に、目をキラキラさせる幼子ら。茶化す義兄。知らん顔でソファに寝そべる甥っ子。
遺影の前にはコップ酒。ひたひたと、晩秋の夜。
川越スカラ座
観客は私を含めて二人。
プライベートスクリーン状態。しかも意図せぬ4DX。映画の筋とは無関係に,屋根がバタバタバタバタと鳴る。剥がれそう。季節外れの大風が、老たる劇場を容赦なく揺さ振る。
違う意味のドキドキが止まらない。
主人公は今までを全て失い、カフェに座る。
ただ、愛を知った者として。
風は去り、静けさが満ちる。
贅沢ここに一つ、確かにありや。