胡桃堂喫茶店

特集・水無月篇[令和七年]ファンタジー

あわい

シュールクリーム一座

この物語をきいてくれるあなたへ

あれがない!
唯一の手がかりだったのに

 

わたしの何かを探していたら、いつの間にかクルミドコーヒーにきていた。

はやく帰らなきゃ…

時間を進められない日々に、うんざりしていた。

やらなきゃいけないことがあるはずなのに!

退屈さが伸びきってプツンと音を立てたとき

わたしのからだはちいさくなっていた。

そしてめのまえには、おかしないきもの。

どこかからはぐれちゃったみたい
きおくからはみだして、わすれられていた。

 

―きみも まいごなの?―
って、そのこにきかれた。

まいごって、こどもじゃないんだから、って おもったけど
わたしをみつけて、うれしそうなそのこ。

そのこはただ、「くるみわり」となのった。
それ以外のことは、なんにもわからないんだってさ。

どうしてそんなに、たのしそうなの。
なんにもおぼえてないのに。
そもそも、くるみわりかどうかもアヤシイし。
そんなふわふわで、われるワケナイし・・・

でも、このちいさなよくわからないモフモフといっしょなら、
だいじょぶそうなきがした。

ふしぎ。

わたしたち、ほんとはむかし、あったことあるのかな?

 

―伝票係のみんなにきいたんだけどね、ここには空きがないけど、おとなりの胡桃堂喫茶店ってとこなら、ちいさいぼくでも手伝えることがあるかもしれないって!―

きゅうに、何を言い出すのだろう。

―くるみさんを見守って、くるむしごとのことだよー

 

それからというもの、
そのこは くるみの声をきくれんしゅうをはじめた。

でも、おなかがじゃまして、くるみはおもくて、なかなかもちきれず…

 

結局おとして、割ってしまったの。

くるみがいいよっていうまえに。

 

くるみを割った日から、
クルミドコーヒーであのこをみかけることがなくなっていった。

どこいっちゃったんだろう…?

もしかして…

そうしてわたしは胡桃堂喫茶店を訪れた。

あのこは、ぼんやり外を眺めていた。

そのすがたと、ちいさくなってからはじめてよんだ、
いまのわたしサイズの絵本が重なった。

「小さなファンタジー 大きなシステムと」

表紙は、背表紙の文字「大きなシステムと ちいさなファンタジー」が
ひっくりかえったまま製本されていた。

きみは、きっとこの絵本から出てきたんだ。
そしてたぶんわたしも、この世界を共有していた。
わたしたちを繋ぐものはこれなんだ。

それをあのこに伝えたかったけど、
何が描かれていて、何が描かれていなかったのか、
そもそもまだ描かれる前なのかどうかも
思い出せなかった。

―ぼくは、きみとは 
すむせかいがちがうんだ
ぼくのせかいと きみのせかいは 
ほんとうは まじわることがないんだ
ここにいちゃだめなんだー

くるみわりはいう。

そんなことない! 
いちゃダメなんてこと、ないのに!

そういいたいけど、自信がもてなかった。

だって、わたしだって、いていいっておもえないもん。

 

そしてわたしは、この絵本の空白のページを埋めるたびに出た。
このからだが もとにもどるひ の ために。

―あなたに出会うことは、わたしに出会うことー

PS この物語をきいてくれたあなたのこと、シュールクリーム一座のメンバーだと思ってもいいですか?

シュールクリーム一座より

シュールクリーム一座

ちょっぴりいびつで不器用なにんぎょうとニンゲンの集団。
「ちいさくてよわい不完全なメディア」
旗揚げ公演を目指し、ゆっくりあるいている。
ゆめは、ファンタジーを再定義すること。
人形劇を再定義すること。

メンバーをみつけるたびに出ているところ。
すぐ隠れようとするけど、もしみかけたら、そのときはよろしくね。


シュールクリーム一座さんの記事一覧