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特集・水無月篇[令和七年]ファンタジー

ファンタジー

品川のOL

私は、現実主義で、お金至上主義である。

愛かお金か?と聞かれたら、迷わず「お金」と答える。お金で買えないものが沢山あるのは承知しているが、この世に"お金で買えるもの"と"お金で買えないもの"と、どちらが多いかと聞かれたら、現実的に考えて、"買えるもの"の方が多いと思う。だから、「お金」と答える。

この世ではお金がなければ生きていけないから、お金はこの世で最も現実的な存在だと思う。

現実主義だから、お金至上主義なのである。

 

1日9時間週5日働いているが、それもお金のためだ。毎月、給料日が来るとニヤニヤする。

そんな私は最近、キャッシュレス派になった。

スマホさえ持っていれば、レジはもちろん、改札も通れる。割り勘もできるし、通販で支払いもできる。
銀行口座もモバイル版に変えて、実物の通帳は破棄した。すぐに口座残高を確認できるし、振り込みもできる。

 

今日もキャッシュレスで買い物をする。
「Suicaで」
「ピー」
一瞬で支払いが完了する。

 

支払いをすると、電子マネーアプリの残高数字が少し減る。
残高がなくなれば、アプリに紐付けている銀行口座からチャージする。銀行口座の数字が減って、アプリ内の数字が増える。

毎月給料日、通帳の数字が増える。ニヤニヤする。貯金用の口座にお金を移す。片方の口座の数字が減り、片方は増える。毎月10日、クレジットカードの使用金額が引き落とされる。口座の数字が少し減る。

全部、スマホの中で完結する。一度も財布を出していない。お金を使っても、スマホの中の数字以外何もなくならない。財布が軽くなるみたいにスマホが軽くなることもない。

あれ?誰かの口座の数字が減って、誰かの口座の数字が増えるとき、「お金」はどこにあるのだろう。

現実主義でお金至上主義の私は思う。

何もなくならない。何も増えない。数字の移動。

この世で最も現実的な存在であるはずの「お金」は、スマホの中の「数字」になってしまった。

いつしか、最も現実的だと思っていた「お金」こそファンタジーになってしまうのかもしれない。

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