胡桃堂喫茶店

特集・如月篇「ちょっと話したいこと」

2月28日(土)曇り

魂という名の野生動物

母はハーフだった。

父から母の出生を聞かされた。驚かなかったといえば嘘になるが、言葉に詰まって話せなくなるようなことはなかった。考えたことはなかったし、当たり前だけど想像することもなかった。いや、あったか。

瞳の色が緑がかっているというか、灰色っぽいというか、顔立ちが少し日本人っぽくないところがあって。だからときどき冗談で友達や恋人と「混血なのかも」ってふざけた記憶はあるけど、本当に混血だったなんて。

事実を直接、母にも確かめた。

死んだというか、〝いない〟とされていた母の父のことを母から初めて聞いた。知らなかった事実に触れたのだ。大人になってから、自分が知らない、自分の出自を知らされて、映画やドラマの世界の話みたいだなって。いまだに現実味がない。

母は言った。

「黙っていたことを悪く思わなきゃいけないかしら」

なぜ隠していたんだろう。なぜ、わたしはモヤモヤするんだろう。行き場のない感情が、からだをグルグルするよ。

魂という名の野生動物

国が変わり、時代が移っても、なぜか同じ声がする。声は水を注ぐ仕草になり、花を活ける手になり、甘いものを分け合ったり奪い合ったりする。相手と初めて会ったはずなのに、ずっと前から知っているような瞬間がある。街の喫茶店、空港、異国の大聖堂、港町の酒場、上空の機内、下町の屋敷、高台の牧場、都会の蕎麦屋、等々。それぞれの声は交わらないまま、しかし響き合い、やがて別の場所を立ち上げます。そこにいるのは、似た選択で同じような後悔を抱き、迷い、胸を熱くする、名も立場も違う人々です。その記憶をここで静かに追いかけます。

 

これは、時間を超えて繰り返される、いくつかのいのちの物語です。


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