胡桃堂喫茶店

特集・如月篇[令和七年]喫茶店

隙間時間

moe

あと10分、大丈夫。
駅構内の喫茶店に駆け込む。
珈琲とチョコレートケーキ。
昨夏の盛岡旅の帰りに座った席と同じところ。
今日は一人だ。

昨日のことは夢だったんじゃないかと思うほど、しあわせな時間だった。
盛岡からはるばる来てくれたゆきちゃんさめちゃんと過ごした一日。
宇宙に想いを馳せ、絵本の森に夢中になり、大好きなドーナツをテイクアウトして公園へ。
ベンチにぎゅっと並んで座って、それぞれ選んだドーナツを頬張った。
大笑いしながらブランコに乗る子を眺めながら。

こういう時間が心底しあわせだ。
安心しきってゆるみきって、ぽつぽつ言葉を交わし合って。

お気に入りの本屋さんにも一緒に行った。
子にせがまれるまま、いくつも本読む。ちいさな声で。

「この中から一冊選ぼう!」
あれもこれもって欲しくなるけど、今日は一冊。
その一冊を選ぶのがいいんだ。
持ち帰ってほくほくと眺める時間がまた至福なんだ。

電車に乗って、ホテルにチェックイン。

”あたしたちはどこまでも自由”

って、そんな気持ちになる。
シンプルで温かなフロント。
いつもの道を今日は四人で歩いてく。
いつのまに3歳になった子は、今や道先案内人。
”こっちだよ!” ってずんずん歩く。

扉を開ければいつもの二人が待っていて
”よく来たねー”って迎えてくれる。

みんなそれぞれおしゃべりしつつ、ゆっくりごはんの支度をする。
おむすび握り、大根をジリジリ焼き、いちごを洗って子どもたちの元へ。
深夜に仕込んだおでんを温め、ゆっくり夜が更けてゆく。

縁側から ”やっほー”
玄関から ”来たよー”

いつもの顔が集まってくる。
そのたびに乾杯して、再会できた喜びを祝って。

台所と食卓をいったりきたり。
この感じがやっぱりいい。

ここが私の店なんて。
みんなと育ててきた場所なんだよなって。

集える場がある、分かち合える時間があることの豊かさよ。
こういう時間のために生きてるんだよな。

moe

1990年生まれ 牡牛座
東京都稲城市で生まれ育ち、小・中学生時代は新体操、
高校から大学までチアリーディングに夢中に。
助産師への憧れから看護の道へ進む。
筑波大に通いながらシェハウスに暮らし、コミュニティカフェの立ち上げに関わり、地域の居場所作りに興味がわく。
イギリスにある「土・心・社会」をテーマに学ぶ『シューマッハーカレッジ』での体験を機に、自分も場を作ろうと、母とともに地元稲城の空き家を借りて『いな暮らし』という店を始め10年。
3歳の子どもとの生活をベースに、新たな展開を模索中。