パトカーのサイレンが鳴る。辺りが騒がしい。
こじんまりした庭は生垣で覆われ、こちらから外は全く見えない。
小さな家庭用ブランコに、ぼんやり座っていた。
父の怒声が響く。
はじかれたように駆け、木戸からヒョイと顔を出す。
警官、父と母、母におぶわれる妹。
こちらを見て唖然とする大人達。
要は、あれだ。はやとちり。
妹の診察が終わるのを入り口で待っていたら、顔見知りに手招きされた。院長先生の奥さんだ。
「よかったら、ウチのお庭で遊んでなさいな?」
待ち飽きた私に断る理由もなく、医院に隣接するお宅の庭で、ブランコを漕ぐ。
両親は慌てた。忽然と姿を消した幼女。父は速攻で通報。で、パトカー登場。
遅いっ!何してんだっ!激昂する父。
、、、そこに件の娘がひょっこり登場。
✳︎
帰宅したら、雷が落ちた。
なんで怒ってるんだろ。
なんだか声が遠くなる。ふっと意識も飛んでいく。
どうやら、熱が出たらしい。
母によってテキパキと布団が敷かれ、パジャマに替えられ、おでこにアイスノンベルトを装着。
うとうとまどろむ私の枕元で、父はそわそわ旋回する。
ボーン、ボーン、ボーン。
リビングの壁掛け時計が3時を知らせる。
あら、起きた?なんか食べる?
母はぬるくなったアイスノンを外す。
「、、、りんごすったのがほしい。」
しばらくすると、父がお盆を持ってきた。額に手を当てられる。
すんと、林檎の香り。
「早く食べなさい。」スプーンと器を持たされる。
酸化して、所々茶色い。少しずつ掬っては、味わう。
父は黙ってあぐらをかく。
林檎はただただ甘酸っぱく、ゆっくりゆっくりしみわたる。
障子越しにやわらかな光。
なんてことない、秋の夕暮れ。