「イヤァァァァァーーーー」
1Fのテーブルのふもとには男が横たわっていた。
*
第一発見者となったのは玄関扉を開けた客、秋山(30代女性)だ。横たわっていた男の名は三宅(60代男性)。死因は卵アレルギー。男は40分ほど前に来店。浅煎り珈琲とともに、台湾カステラを15個、南瓜のプリンを27個注文した。店員は深く考えず黙々と提供を続けた。
「まさかアレルギーがあったとは‥」
最近入社したばかりのスタッフ、ローレンス(20代男性)は肩を落とす。卓上の数十枚の皿は空にされており、倒れた男の左手はある模様を指していた。
「これは、時計‥?」
砂糖の白線がきれいな円を描いている。使用されていたのは数本のスティックシュガー。そこにフォークとスプーンが、まるで長針と短針のように配置されている。指し示す人差し指を起点に眺めてみるとある意味が浮かび上がる。
「午後3時‥」
「警部警部、たしかにあっちがキッチンで、こっちはダイニングですもんね!」
「バカヤロウこの野郎!ダイニングだ?ばかなお前をパンチングだこの野郎!東京湾にダイビングしてえのかこの野郎!今週末は上司のおれのキャンピングに付き合わせてやっからなこの野郎!メッセージだよメッセージ!大事なのはそこだってんだよ!」
「エル‥?」
そう見えますねと横で呟いたのは店員ローレンス。長針と短針を繋いでみると「L」の字に見える、と。違う、僕じゃない!そんな騒ぎを聞きつけ2Fから降りてきたのは店内を利用していた八木(50代女性)。
「ちょっとあなた、どきなさい」
ローレンスが後退りすると2Fの窓から差し込む陽の光が文字盤を照らした。その光の筋はちょうど、文字盤でいうところの7と8の間に突き刺さる。
「Y‥?」
違う、違うわ!私じゃないわ!
——ゴーン、ゴーン
その場の動揺を遮って鐘が鳴る。
「午後3時‥」
Gone.
おやつはもう跡形もない。