胡桃堂喫茶店

特集・葉月篇「グラス」

鳥が飛び方を忘れないのはわかってる

カエサザル進藤

喫茶店でノートパソコンを開くことがよくあります。席について、スタッフが注文を取りに来るよりも先にパソコンを広げることもままあります。

あ、スタッフが注文を取りに来ました。えーとそれでは今日は、少し喉が渇いているのでアイス・カフェオレにします。ありがとう。

注文を済ませると、また画面に集中します。

失礼します、と言って、スタッフがお冷やを入れたグラスを持ってきてくれました。

画面から目を離さず作業をしながら返事をするのは失礼だと思うので、キーボードに乗っていた手を膝の上に下ろして、背もたれに体を預けて、ありがとうございますと言おうとし、、、、

お願いだから、お冷やのグラスは、パソコン上空を通過させないで!! ものすごくヒヤリとしますので! お冷やだけに! マジで!

もしかしたら、お客さんの正面にグラスを置くことが、おもてなしの基本なのかもしれない。それが、作法なのかもしれない。そもそもカフェでパソコンを開く方が無作法なのかもしれない。

グラスをパソコンの上に落とすどころか、水滴が落ちたり飛んだりするような、そう、言ってみれば鳥が飛び方を忘れてしまうようなことなど起きるはずがないという、意識の表層にすら上がってこない自信で、お冷やを運んできてくれたスタッフは淀みない動きをしている。そしてもちろんそんな惨事はかつて起きたことはない。

それでも、ヒヤリとするから! お冷やだけに! マジで! グラス!

カエサザル進藤(カエサザルしんどう)

カタカナ+苗字っていうペンネームをみんな持ってて、ちょっとうらやましくなりました。だけどみんなの漢字部分は、苗字じゃなくて駅名だったことに気がつきました。そしてカタカナ部分は食品名でした。気がついたんだけど、この名前が気に入ってしまったので、そのまま使ってみることにしました。

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