胡桃堂喫茶店

特集・如月篇[令和七年]喫茶店

ぬいくるみ

まばたきちゃん

―喫茶店は、さまざまな惑星から流れついたひとびとが羽を伸ばせるオアシス―

 

西国分寺の森をすぎて、きょうはいつもより遠くまで流れてしまった。
こくぶんじ星 胡桃堂喫茶店…?

扉をあけると、中ではいろんな音が聞こえる。
じぶんがしらない星で生きている人がいる…。

ひとりで来ている人もなんにんかいるみたい。

鞄の中に忍ばせたふわふわのぬいぐるみをテーブルの上に出す。
ちょっと恥ずかしい。

クルミドコーヒーのくるみわりさんがいなくて、ちょっぴりふあんそうなぬいぐるみ。

縫いあとが目立つからだ。糸がほどけてきてる…。

ぬいぐるみと来たよって写真を、しゃっと撮って、すこしキョロキョロして、また鞄の中にかくす。

だれか、気づいている人はいるのかな…

店員さんにはばれてる?

はじめての場所は、いつもちょっと、ゆうきがいる…

 

ちいさな足音がして、胡桃堂ブレンドがはこばれてきた。

こくぶんじ星の、深い泉のように青い眼をした店員さん。

ぱちりと目が合う。

胡桃堂ブレンドを一杯のんで、まぶたを閉じた。

 

~~ぬいくるみ堂喫茶店にようこそ~~

 

「お待たせいたしました。ふわふわの、ぬいくるみでございます」

 

くるみをふわふわしたクリームとメレンゲでつつんだ、ぬいぐるみのようなお菓子が出てきた。

たべると、ふわっ

羽を感じる。

見渡せば

ちがう星の、むっ、としたかおのひとも、たべるとふわっ…ほほがゆるんでる。

あまいもの、こわいかおしてたべるのって、むりだよね。

まばたきするくらいの時間にうまれる、ふわっ…

いたずら好きの妖精になったみたいな、むじゃきなじかん。

 

「ぬいくるみは、ひととひとの間を縫う、お菓子です」

 

傷あとを想いながら、やさしく縫い直されたからだを、おもわずぎゅっとした。

まばたきちゃん

人形劇団シュールクリーム一座のメンバー
主催:空想劇場 まばたき屋
にんぎょうとニンゲンの間にいる存在で、ゲンジツとヒゲンジツの間にいる。
ゆめは、ファンタジーを再定義すること。