胡桃堂喫茶店

特集・神無月篇[令和六年]コーヒーのお供

そんなにコーヒー好きじゃない

大畑純一

コーヒーのおいしさがまだよくわからなかった頃のことを
思い出してみた。

コーヒー屋さんでアルバイトをし始めてから、
だんだんとこの飲み物に馴染みを感じるようになっていった。
いまいちコーヒーをおいしく飲めていない気がする。
もうひとつ仲良くなりたい。
一緒に働いていた先輩と、夜、バーのような暗いカウンターで珈琲を飲んだとき
率直に聞いてみた。

ちょうど私たちの間にあった、焼菓子だったかなんだったか
それを口に含みながら
食べ終わるか終わらぬか、まだ少しクッキーのかけらを飲み込めていないようなタイミングでコーヒーの飲むのだ、と。

やってみると、今まで苦いだけだったコーヒーが、甘く様変わりした。
スポイトで魔法を一滴落としてわっと色が変わる化学反応のように
それはその通り化学反応なのだが、
ミルクや砂糖が教えてくれなかった、コーヒーの本当のおいしさが広がった気がした。

食べ物の好き嫌いは、自分の知覚がアクセス/キャッチするのが、そのものの良い部分か、悪い部分かによって生まれているに過ぎないのではないかと私は考えている。
先天的にではなく後天的に、いい経験をすることで
好きになれるものはたくさんあると思う。
私も今となっては、苦いコーヒーが大好きだ。

もしコーヒーと仲良くなりたい方がいらしたら
ひとつのおすすめとして、ぜひお試しあれ。

大畑純一(おおはた・じゅんいち)

スタッフ。チーム全体の庶務を仕事の中心としながら、たまにシフトにも入る。ホールをうまく回せているときが人生で一番楽しい。ただ、脳のメモリが十分でないためよく混乱している。