席に案内されるとまず、アタッシュケースをテーブルの上に置く。
(手早く、かつ静かに。)
去ろうとする店員を呼び止めつつ、
両手でケースを丁寧に開き、いつものボデガグラスを取り出す。
「お嬢さん、お冷はこれに、注いでもらえるかな?」
店員の反応が遅れることなんて織り込み済みだ。
私にとってはありふれた間でしかない。
だが、店員が醸す空気のわずかな挙動に私は違和感を覚えた。
まさか。
——そう、この店のお冷グラスには
Bormioli Rocco のボデガタンブラー、
私が手に取ったそれと同じものが使われていた。
*
こんな話でよかったかな?
この店を訪れる時だけアタッシュケースが少しだけ軽くなったのは
言うまでもないね。
「お嬢さん、グラスをひとつ、貸してもらえるかな?」