胡桃堂喫茶店

特集・皐月篇[令和七年]心がデカめに動いたとき

カエサザル進藤

月がきれい。

僕はカマキリを捕りに原っぱにやってきて、原っぱの向こうに雑木林があって、その向こうには給水塔が見えてて、そのもっと向こうにぽっかり月が、小さく浮かんでいる。

空は紫色とピンク色と紺色がにじんでいて、下の方が少しだけオレンジ色だ。

寒い。でも服を着てるから、がまんできる。鼻だけが冷たい。鼻だけが冷たいのは、なんか好き。

冷たい鼻と鼻をくっつけても鼻は温かくならないけど、なにかに包み込まれるように体が温かくなる。

遠い空に月が小さく浮かぶ夕闇に、いつまでも一緒に包まれる。寒いのと冷たいのと温かいのがにじんで、それがなんだかいい気分だ。月が高くなっても、ずっと一緒にいられるんだ。しゃべる言葉がなくても大丈夫だ。ふたりで一緒にいるのと同時に、完全にひとりなんだ。

空や月は、ずっと変わらない。僕のスピードから見ると。空や月になったら退屈なんだろうか。僕の体のサイクルはあまりにも短すぎて、空や月にはなれない。生きてる間は。

今日も月はきれい。

カエサザル進藤(カエサザルしんどう)

カタカナ+苗字っていうペンネームをみんな持ってて、ちょっとうらやましくなりました。だけどみんなの漢字部分は、苗字じゃなくて駅名だったことに気がつきました。そしてカタカナ部分は食品名でした。気がついたんだけど、この名前が気に入ってしまったので、そのまま使ってみることにしました。


カエサザル進藤さんの記事一覧